イランの人形劇オペラ「モウラヴィー」

イランの人形劇の質の高さには、観る度に驚かされるばかり。

人形劇オペラ「モウラヴィー」は、今や世界中で「ルーミー」の名で知られるモウラヴィー(またはモウラナー、メヴラーナー)が悟りを得るに至った過程を描いた作品。

物語は、モウラヴィーの青年期、モンゴル軍が略奪と殺戮を行った時代から始まる。
次に後代のペルシャ詩とスーフィズムにおいて多大な影響を与えた詩人アッタールが殺害され、高名な神学者だったモウラヴィーの父親も死に至る。
その後、モウラヴィーはシャムスと出会い、シャムスに心酔。修行者として一生を捧げる事を誓い、これまでの生活を放棄する。
「モウラヴィーの様子が変わったのはシャムスのせい」と抗議するモウラヴィーの弟子たちが、シャムスを処分する(弟子たちに妬まれ殺されたという一説があるが、シャムスの消息が途絶えた理由は不明とされている)。
モウラヴィーの書いた長大な叙事詩「精神的マスナヴィー」に描かれる一物語「ムーサーと羊飼い」のシーン導入の後、宗教儀式サマー(サマーウ、セマなどとも表記される)で終わる。

人形劇用の、人間が動き回るステージよりふた周りも小さなステージから離れた所に座っていた私は、目瞬きをするのも惜しんで目を凝らして見入った。
最も印象に残った場面は、モウラヴィーとシャムスの出会いのシーン。

父親の死後、暗闇の中で沈んでいるモウラヴィーのところへ、シャムスの姿が現れる。
モウラヴィーがシャムスに向かって言う:「あなたは、誰なのですか?」
すると、シャムスが返す:「あなたこそ、一体誰なのですか?」
そして問答は続く・・・。

人間がその人生において、個人の存在における問いを抱え、真我との対話を行う、という場面として受け取ることもできる。モウラヴィーは問う者、そしてシャムスは真我。

シャムスの声を、現在最も人気を博す若手歌手のホマユーン・シャジャリアーン氏(巨匠モハンマド・レザー・シャジャリアーン氏の息子)が、そしてモウラヴィーを、こちらも若手人気歌手の一人であるモハンマド・モオタメディー氏が担当。
2人の透明な歌声があまりにも美しく、完全に時間を忘れた。

また、その他のキャラクターにも、若い優れた歌手が勢ぞろいしている。演奏はウクライナ国立オーケストラ、指揮は世界的に有名なウクライナ人指揮者ウラディーミル・シレンコ(Vladimir Sirenko)氏が担当。
音楽自体は、イラン古典音楽を基本にしてオーケストラのアレンジが加えられ、歌はほとんどがイランの古典歌唱技法で歌われていた。シャムスが登場する場面では、古くから宗教的儀式で使われてきたダフの演奏が用いられた。
作曲を手がけたのは、こちらも若手でウクライナ在住のイラン人作曲家、ベヘザード・アブディ。
実際のショウには、演奏は生ではなく、予め録音したものが使用されていた。

人形の操り師は多くが女性であり、この人形劇の監督であるべへルーズ・ガリーブプール氏の弟子たちだそうだ。

このすばらしい芸術の制作に関わった全てのアーティストたちに、大きな拍手を送りたい!

(Blog『詩と歌の国、イラン』2010年5月9日記事より抜粋)

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